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「職員の話を聞いているのに、なかなか本音を話してもらえない」
「ご利用者やご家族とのコミュニケーションがうまくいかない」
「相手の話を聞いているつもりなのに、いつの間にか自分ばかり話している」
介護現場で、このような悩みを感じたことはありませんか?
介護の仕事では、ご利用者やご家族、職員、多職種など、さまざまな立場の人と関わります。
そのため、コミュニケーション能力は欠かせません。
しかし、コミュニケーション能力というと、どうしても「わかりやすく話す」「上手に説明する」といった話し方に注目しがちです。
実は、相手との信頼関係を築くうえでは、話し方だけでなく「聞き方」が重要です。
今回紹介するのは、永松茂久さんの著書『人は聞き方が9割』です。
本書では、人に安心感を与え、信頼関係を築くための聞き方が紹介されています。
この記事では、本書の重要なポイントをわかりやすく解説するとともに、介護現場での具体的な活用方法を紹介します。
さらに、生活相談員やリーダー、管理職の立場から、傾聴を単なるコミュニケーション技術で終わらせず、問題解決や業務改善につなげる方法についても考えていきます。
『人は聞き方が9割』とは?本書から学べること
『人は聞き方が9割』は、ベストセラー『人は話し方が9割』の著者である永松茂久さんが、良好な人間関係を築くための「聞き方」に焦点を当てた書籍です。
本書の中心にあるのは、人は自分の話を安心してできる相手に心を開きやすいという考え方です。
会話を盛り上げることや、気の利いた言葉を返すことだけがコミュニケーションではありません。
相手の話を否定せず、遮らず、関心を持って聞く。
こうした基本的な姿勢が、信頼関係を築くうえで重要になります。
本書から学べる7つのポイント
本書の内容を整理すると、特に重要なのは次の7つです。
- 相手に安心感を与える
- うなずきや相づちで関心を伝える
- 相手の話をすぐに否定しない
- 会話で相手と競わない
- 話を遮らず、最後まで聞く
- 秘密を守り、信頼関係を築く
- 聞くことによって相手を支える
これらは、介護現場における傾聴や相談援助、多職種連携にも共通する考え方です。
ただし、介護の専門職として考える場合には、もう一つ重要な視点があります。
それは、「聞くこと」は目的ではなく、相手を理解し、必要な支援につなげるための出発点であるということです。
なぜ介護現場では「聞く力」が重要なのか?
介護現場のコミュニケーション不足が引き起こす問題
介護現場では、コミュニケーションの不足や認識の違いによって、さまざまな問題が発生します。
例えば、次のような場面です。
- ご利用者の希望が十分に把握されていない
- ご家族の不安や要望が職員間で共有されていない
- 職員が困っていることを上司に相談できない
- 多職種間で判断や対応に違いが生じている
- 会議で意見が出ず、課題が表面化しない
こうした問題の背景には、情報共有の仕組みだけでなく、日頃の聞き方が関係している場合もあります。
例えば、職員が相談しても、いつも途中で否定されたり、一方的に指示されたりする環境では、次第に意見を言わなくなるかもしれません。
その結果、現場の課題が管理者に伝わらず、問題が大きくなってから発覚することも考えられます。
安心して話せる環境が、問題の早期発見につながる
大切なのは、誰もが安心して必要な情報を伝えられる環境をつくることです。
これは、組織における心理的安全性とも関係します。
心理的安全性とは、意見や疑問、失敗などを伝えることで、対人関係上の不利益を受けるのではないかと過度に恐れずに済む状態を指します。
ただし、何を言っても許される環境という意味ではありません。
必要な指摘や意見の違いがあっても、建設的に話し合えることが重要です。
介護現場においても、安心して話せる環境があれば、小さな疑問や問題を早い段階で共有しやすくなります。
介護現場で役立つ聞き方①|相手に安心感を与える
最初から正論やアドバイスを伝えない
例えば、職員から次のような相談を受けたとします。
「最近、仕事が忙しくて本当に大変なんです」
このとき、どのように返すでしょうか。
避けたい対応
「みんな忙しいんだから仕方ないですよ」
「もっと効率よく仕事をすればいいんじゃないですか?」
このような返答では、職員が何に困っているのかを十分に確認できません。
また、本人は自分の話を否定されたと感じるかもしれません。
改善した対応
「そうなんですね。特にどのようなところが大変ですか?」
「どの時間帯に負担が集中していますか?」
このように返すことで、相手が感じている負担を受け止めながら、具体的な状況を確認できます。
安心感と問題解決は両立できる
ここで注意したいのは、相手の気持ちを受け止めるだけで終わらせないことです。
例えば、業務が忙しいという相談に対して、
「大変ですよね。無理しないでくださいね」
と伝えることはできます。
しかし、それだけでは業務負担の原因は解決しません。
必要なのは、相手の気持ちを尊重しながら、何が問題なのかを整理することです。
「忙しい」という言葉だけでは、具体的な課題はわかりません。
業務量が多いのか、特定の時間帯に業務が集中しているのか、役割分担に問題があるのか。
こうした内容を確認することで、業務改善につながる情報が得られます。
安心して話せる関係をつくることは、問題解決の第一歩なのです。
介護現場で役立つ聞き方②|うなずきと相づちで関心を伝える
「聞いているつもり」では伝わらない
本書では、うなずきの重要性が紹介されています。
相手の話を聞いていても、反応がほとんどなければ、相手は不安になることがあります。
特に、パソコンの画面を見たまま話を聞いたり、別の作業を続けながら返事をしたりすると、相手は十分に聞いてもらえていないと感じるかもしれません。
もちろん、介護現場では業務中に話しかけられることも多く、毎回すべての作業を止められるわけではありません。
その場合には、
「今、記録を入力しているので、5分後にお話を聞いてもいいですか?」
と伝える方法もあります。
重要なのは、相手の話を軽く扱わないことです。
ご利用者との会話での具体例
例えば、ご利用者が次のように話したとします。
「昔は毎日、畑仕事をしていたんだよ」
このとき、
「そうなんですね」
と返すだけでも会話は成立します。
しかし、
「毎日畑仕事をされていたんですね。どんな野菜を育てていたんですか?」
と返せば、会話が自然に広がります。
こうした会話から、生活歴や趣味、本人が大切にしてきた価値観などを知ることができます。
これは、個別ケアを考えるうえでも重要な情報です。
ただし、質問を重ねることが目的にならないよう注意が必要です。
相手の表情や反応を見ながら、無理のない会話を心がけましょう。
介護現場で役立つ聞き方③|相手を否定せず、判断の理由を確認する
「それは違う」と言う前に考える
職員から、自分とは異なる意見が出されたとき、すぐに否定していないでしょうか。
例えば、
「ご利用者が入浴を嫌がっているので、今日は中止した方がいいと思います」
という提案があった場合です。
そこで、
「それは違います。入浴は必要でしょう」
と返してしまうと、職員がそう判断した理由を確認できません。
まずは、
「どうして中止した方がよいと考えたのですか?」
と聞くことが重要です。
ご利用者の体調が普段と違ったのかもしれません。
本人の拒否が強く、無理に進めることを避けようとしたのかもしれません。
あるいは、職員側の都合による判断かもしれません。
理由を聞かなければ、適切な判断はできません。
相手を否定しないことと、必要な指摘をしないことは違う
介護現場では、専門職として必要な指摘をしなければならない場面もあります。
例えば、不適切なケアや事故につながる対応が行われていた場合です。
このようなときに、相手を否定しないことを優先して、問題を見過ごしてはいけません。
重要なのは、相手の人格や能力を否定するのではなく、具体的な行動や判断について確認することです。
「なぜそんなことをしたのですか?」
ではなく、
「そのとき、どのような状況だったのか確認させてください」
と聞く。
そのうえで、必要な指摘や改善策を伝えることが大切です。
介護現場で役立つ聞き方④|相手と競わず、自分の経験を押しつけない
経験豊富な職員ほど注意したい「昔はもっと大変だった」
介護現場では、経験年数や役職によって知識や経験に差があります。
経験豊富な職員が、若手職員に助言することは必要です。
しかし、自分の経験を伝えることが優先され、相手の話を十分に聞けていない場合があります。
例えば、若手職員が、
「昨日の夜勤は本当に大変でした」
と話したとします。
そこで、
「昔はもっと少ない人数でやっていたよ」
と返してしまう場面です。
本人は経験を伝えているつもりでも、相手には大変さを軽く扱われたように感じられるかもしれません。
まずは、
「昨日は何が一番大変でしたか?」
と聞いてみましょう。
そのうえで、自分の経験が参考になるのであれば伝えればよいのです。
専門用語の多用にも注意する
専門知識があることと、相手にわかりやすく説明できることは別です。
特に、ご家族への説明では、専門用語を多用すると理解が難しくなる場合があります。
また、職員間でも知識や経験には差があります。
大切なのは、相手の理解度に合わせて言葉を選ぶことです。
専門性とは、難しい言葉を使うことではありません。
難しい内容を、相手が理解できるように伝えることも専門性の一つです。
介護現場で役立つ聞き方⑤|話を遮らず、最後まで聞く
結論を急ぐことで、重要な情報を見落とすことがある
経験を積むほど、相手の話を途中まで聞いただけで、結論が見えたように感じることがあります。
しかし、最初に話された内容が、必ずしも本当の問題とは限りません。
例えば、ご家族から、
「最近、母の様子が少し気になっていて……」
と相談されたとします。
そこで、すぐに認知症の進行や身体状態について説明を始めてしまえば、ご家族が本当に心配していることを確認できない可能性があります。
まずは、
「どのようなところが気になりますか?」
と聞き、具体的な内容を確認しましょう。
「でも」の前に、一度相手の考えを受け止める
本書では、「でも」という言葉を多用しないことも紹介されています。
「でも、それは違います」
「でも、現場では難しいです」
「でも、忙しいのでできません」
このような言葉が続くと、話し合いが進みにくくなる場合があります。
ただし、反対意見を伝えること自体が悪いわけではありません。
例えば、
「そのように考えた理由は理解できました。一方で、安全面について確認したいことがあります」
と伝えれば、相手の考えを尊重しながら、必要な意見を伝えられます。
相手を尊重することと、自分の意見を伝えることは両立できます。
介護現場で役立つ聞き方⑥|秘密を守り、信頼関係を築く
「ここだけの話」が信頼関係を壊すこともある
本書では、秘密を安易に他人へ広めないことの重要性が紹介されています。
これは、介護現場では特に重要な内容です。
ご利用者やご家族の個人情報、職員からの相談内容など、業務上知り得た情報は適切に取り扱わなければなりません。
例えば、職員から個人的な相談を受けた際、その内容を本人の了承なく他の職員に広めてしまえば、信頼関係が損なわれる可能性があります。
守秘義務と必要な情報共有を区別する
ただし、すべての情報を秘密にしておけばよいわけではありません。
ご利用者の安全に関わる情報や、虐待が疑われる事案などについては、必要な報告や情報共有が求められます。
大切なのは、情報共有の目的と範囲を明確にすることです。
誰に、何を、何のために伝えるのか。
こうした判断が、専門職には求められます。
秘密を守ることと、必要な情報を共有すること。
その両方を適切に行うことが、信頼関係につながります。
介護現場で役立つ聞き方⑦|傾聴を問題解決につなげる
話を聞くだけで安心できる人もいる
本書では、話を聞いてもらうことで救われる人がいるという考え方が紹介されています。
悩みを抱えている人が、必ずしもすぐに解決策を求めているとは限りません。
まずは自分の気持ちを話したい。
誰かに理解してほしい。
話しながら考えを整理したい。
そのような場合もあります。
生活相談員の相談援助でも、すぐに結論を出すのではなく、相手が安心して話せる時間を大切にする必要があります。
しかし、傾聴だけでは解決できない課題もある
一方で、介護現場には、話を聞くだけでは解決できない問題もあります。
例えば、職員から業務負担について相談を受けた場合です。
丁寧に話を聞いても、翌日から同じ負担が続くのであれば、根本的な問題は残ったままです。
ご家族から施設への不安や要望を聞いた場合も同じです。
必要な改善が行われなければ、信頼関係を維持することは難しくなります。
だからこそ、介護現場では、傾聴を問題解決につなげる視点が重要です。
介護現場のコミュニケーション改善に役立つ5つのステップ
本書の考え方を介護現場で実践するために、次の5つのステップを意識してみましょう。
STEP1|受け止める
相手の話を遮らず、安心して話せる環境をつくります。
最初から否定したり、結論を急いだりしないことが重要です。
STEP2|確認する
相手が何を伝えたいのか、何に困っているのかを具体的に確認します。
「いつ」「どこで」「何が起きたのか」といった質問を活用すると、状況を整理しやすくなります。
STEP3|整理する
相手の話を、事実・解釈・感情に分けて整理します。
例えば、
「職員が協力してくれない」
という相談があった場合です。
これは、その人の受け止め方であり、具体的な事実が十分に示されているとは限りません。
「どのような場面で、どのようなことがありましたか?」
と確認することで、具体的な課題が見えてきます。
STEP4|判断する
整理した情報をもとに、必要な対応を検討します。
本人の意向や専門的な根拠、安全性、組織としての役割などを踏まえて判断することが重要です。
STEP5|行動につなげる
必要な対応を具体化します。
例えば、業務改善であれば、
- どの業務を見直すのか
- 誰が対応するのか
- いつまでに実施するのか
- どのように効果を確認するのか
といった内容を明確にします。
聴く → 確認する → 整理する → 判断する → 行動する
この流れを意識することで、コミュニケーションを具体的な支援や業務改善につなげやすくなります。
介護職・生活相談員・リーダーが意識したい聞き方の違い
聞く力は、介護現場のすべての職員に必要ですが、役割によって活用する場面が異なります。
介護職員|ご利用者の思いや生活背景を理解する
介護職員にとって重要なのは、日常生活の中で、ご利用者の思いや希望を理解することです。
何気ない会話から得られた情報が、個別ケアの充実につながる場合があります。
生活相談員|本人・家族の意向を整理し、支援につなげる
生活相談員には、ご利用者やご家族の話を聞くだけでなく、意向や課題を整理し、必要な支援につなげる役割があります。
相手の言葉だけで判断せず、その背景にある思いや生活状況を理解することが重要です。
リーダー・管理職|職員の声を組織改善につなげる
リーダーや管理職には、職員が安心して意見を伝えられる環境をつくることが求められます。
ただし、職員の意見をすべて受け入れることが目的ではありません。
現場の声を聞き、事実を確認し、必要な判断を行う。
そして、組織としての改善につなげることが重要です。
『人は話し方が9割』と『人は聞き方が9割』は何が違う?
永松茂久さんの著書には、『人は話し方が9割』と『人は聞き方が9割』があります。
どちらも、人間関係を良好にするためのコミュニケーションをテーマにした書籍です。
『人は話し方が9割』では、相手との会話を円滑にするための聞き方や、話を広げる技術が紹介されています。
一方、『人は聞き方が9割』では、相手が安心して話せる関係をつくるための姿勢や聞き方に、より焦点が当てられています。
両方に共通しているのは、コミュニケーションの中心に相手を置くという考え方です。
介護現場では、この両方を身につけることが重要です。
相手が安心して話せる関係をつくり、必要な情報を引き出し、理解した内容を支援や問題解決につなげていく。
そのために、話す力と聞く力の両方が必要になります。
よくある質問|介護現場の傾聴とコミュニケーション
Q1.傾聴と、ただ話を聞くことの違いは何ですか?
傾聴は、相手の言葉だけでなく、気持ちや考え、背景にも関心を向けながら理解しようとする姿勢です。
単に黙って話を聞くことではありません。
相づちや質問、確認などを通じて、相手の理解を深めることが重要です。
Q2.職員の話を否定せずに聞くと、何でも受け入れることになりませんか?
相手を否定しないことと、意見をすべて受け入れることは違います。
まずは相手がそう考えた理由を確認し、そのうえで必要な指摘や判断を行います。
安全面や専門的な根拠に関わる問題では、適切な対応が必要です。
Q3.忙しい介護現場で、話を聞く時間が取れない場合はどうすればよいですか?
すべての相談に、その場ですぐ対応する必要はありません。
緊急性を確認したうえで、必要に応じて時間を確保することも一つの方法です。
「今は対応が難しいので、15時に改めてお話を聞かせてください」
と具体的に伝えることで、相手を軽く扱っていないことが伝わりやすくなります。
ただし、ご利用者の安全や緊急対応が必要な場合には、優先して対応します。
Q4.傾聴だけで職員間のコミュニケーションは改善しますか?
傾聴は信頼関係を築くための重要な要素ですが、それだけで組織の問題が解決するとは限りません。
役割分担、情報共有、業務手順、意思決定の方法など、仕組みの見直しが必要な場合もあります。
職員の声を聞き、課題を整理し、具体的な改善につなげることが重要です。
まとめ|介護現場の「聴く力」は、理解と行動につなげてこそ意味がある
『人は聞き方が9割』は、相手に安心感を与え、信頼関係を築くための聞き方を学べる一冊です。
特に、介護現場で意識したいのは次のポイントです。
- 相手が安心して話せる関係をつくる
- うなずきや相づちで関心を示す
- 自分の価値観で相手をすぐに否定しない
- 自分の経験を押しつけず、最後まで話を聞く
- 個人情報や相談内容を適切に扱う
- 聞いた内容を整理し、必要な支援や改善につなげる
介護の仕事では、「傾聴が大切」という言葉をよく耳にします。
しかし、私は傾聴を、単に相手の話を聞くための技術として捉えるべきではないと考えています。
ご利用者が何を望んでいるのか。
ご家族が何を不安に感じているのか。
職員が何に困っているのか。
その背景を理解し、必要な支援や判断につなげることが、介護の専門職に求められる役割です。
話を聴くことは、信頼関係を築くための出発点です。そして、理解したことを具体的な支援や行動につなげてこそ、専門職としての価値が生まれるのではないでしょうか。
今回紹介した書籍
『人は聞き方が9割』著者:永松茂久
※本記事は、書籍の内容をもとに重要なポイントを整理し、介護現場での実践例や専門職としての考察を加えたものです。