『多忙感』に学ぶー介護現場はなぜ忙しい?忙しさの原因と業務改善の5つの方法

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『多忙感』に学ぶー介護現場はなぜ忙しい?忙しさの原因と業務改善の5つの方法

「毎日忙しくて、仕事が終わらない」

「人手不足で、業務改善に取り組む余裕がない」

「仕事を効率化しているはずなのに、なぜか楽にならない」

「忙しい職員と、そうでない職員の差が大きい」

介護現場で働いていると、このような悩みを感じることがあるのではないでしょうか。

介護の仕事は、ご利用者の状態に応じた対応が必要であり、予定どおりに進まないことも少なくありません。

さらに、介護記録、申し送り、会議、事故対応、ご家族への連絡、多職種との情報共有など、直接的な介護以外にも多くの業務があります。

そのため、介護現場が忙しいこと自体は決して不思議ではありません。

しかし、少し考えてみてほしいことがあります。

その忙しさは、本当に仕事の量だけが原因なのでしょうか。

今回紹介するのは、菅原洋平さんの著書『多忙感』です。

本書では、実際に仕事が多い「多忙」と、忙しいと感じる「多忙感」を分けて考える視点が紹介されています。

この考え方は、介護現場の業務改善や生産性向上、職員の負担軽減を考えるうえでも参考になります。

この記事では、本書の重要なポイントを整理しながら、生活相談員として介護現場で働いてきた経験も交え、忙しさの原因と具体的な改善方法を解説します。

この記事で分かること

  • 介護現場が忙しいと感じる原因
  • 『多忙感』の要約と重要なポイント
  • 業務効率化しても仕事が楽にならない理由
  • 介護職員の負担を減らす5つの業務改善方法
  • リーダー・管理職が取り組むべき生産性向上の考え方

介護現場はなぜ忙しい?「多忙」と「多忙感」の違い

多忙とは、実際に仕事の量が多い状態

「多忙」とは、処理しなければならない仕事が多い状態です。

例えば、介護現場では次のような状況が考えられます。

  • ご利用者の介助が特定の時間帯に集中している
  • 職員の欠勤によって必要な人員が不足している
  • 事故や急変などの対応が重なっている
  • 記録や申し送りに多くの時間がかかっている
  • 通常業務に加えて委員会や会議の仕事がある

こうした状況では、実際に必要な業務量に対して、人員や時間が不足している可能性があります。

この場合、職員個人の努力や工夫だけでは解決できないこともあります。

業務量を把握したうえで、人員配置や業務分担、仕事の進め方を見直す必要があります。

多忙感とは、仕事や時間に追われていると感じる状態

一方、「多忙感」とは、忙しいと感じる主観的な状態です。

例えば、介護記録を入力しているときに、次のようなことが頭に浮かんでくる場合です。

「まだ申し送りが終わっていない」

「あのご利用者の状態も確認しなければ」

「明日の会議資料も作らないといけない」

実際に取り組んでいる仕事は一つでも、頭の中では複数の仕事が同時に動いています。

すると、目の前の仕事に集中しにくくなり、時間に追われているように感じることがあります。

また、途中で何度も仕事を中断されることも、多忙感を強める要因になります。

例えば、生活相談員が書類を作成している途中に電話が入り、職員から相談され、ご家族への連絡が必要になる。

そのたびに作業を中断し、再開するときには、どこまで進めたのかを確認しなければなりません。

こうした仕事の切り替えが繰り返されると、実際の作業時間以上に疲労や負担を感じることがあります。

重要なのは、実際の業務量と、忙しいと感じる要因を分けて考えることです。

多忙感を減らす工夫だけで、実際の人員不足が解消するわけではありません。

しかし、仕事の進め方や職場の仕組みを見直すことで、減らせる負担もあります。

『多忙感』の要約|忙しさが減らない3つの理由

本書で紹介されている考え方を、介護現場の仕事に置き換えながら整理します。

① 複数の仕事を同時に考えている

私たちは、目の前の仕事だけでなく、まだ終わっていない仕事についても考えがちです。

例えば、介護記録を作成しながら、次の業務のことを気にしている。

その状態では、一つの仕事に十分集中できない場合があります。

また、仕事を途中で中断すると、再開するために状況を思い出す必要があります。

介護現場では、すべての中断をなくすことはできません。

ご利用者の安全に関わる対応は、優先して行う必要があるからです。

しかし、緊急性の低い確認や報告まで、その都度仕事を中断して対応する必要があるのかは検討できます。

例えば、定例的な確認事項をまとめて共有する方法や、緊急度に応じた連絡ルールを整えることが考えられます。

② 効率化によって、さらに仕事が増えている

業務効率化は、介護現場の生産性向上に欠かせない取り組みです。

しかし、仕事を早く終わらせられるようになったからといって、必ずしも負担が減るとは限りません。

例えば、ICTの導入によって介護記録の時間が短縮されたとします。

これまで30分かかっていた記録が15分で終わるようになれば、15分の時間が生まれます。

ところが、その時間に新しい仕事を追加し続ければ、職員の忙しさは変わらないかもしれません。

もちろん、効率化によって生まれた時間を、ご利用者への支援に活用することには意味があります。

ただし、その時間を何に使うのかを考えず、単純に仕事を増やしてしまえば、職員の負担軽減にはつながりません。

業務効率化の目的は、仕事を詰め込むことではなく、限られた資源をより適切に活用することです。

③ 「やらなければならないこと」が増え続けている

介護現場では、日々さまざまな課題が発生します。

「情報共有を徹底しなければならない」

「事故防止の意識を高めなければならない」

「多職種連携を強化しなければならない」

どれも重要なことです。

しかし、こうした言葉だけでは、具体的に何をすればよいのか分かりません。

抽象的な課題を抱えたままでは、職員は何から取り組めばよいのか判断しにくくなります。

そこで必要なのが、「やらなければならない」という考え方を、「どうすれば実行できるのか」に変えることです。

例えば、「情報共有を徹底する」という課題であれば、次のように具体化できます。

  • どのような情報を共有するのか
  • 誰が報告するのか
  • 誰に伝えるのか
  • どのタイミングで伝えるのか
  • どの方法で共有するのか

こうしたことを明確にすれば、実行しやすくなります。

抽象的な目標を、具体的な行動に変えることも、業務改善の重要なポイントです。


介護現場の忙しさを減らす5つの業務改善方法

介護現場の忙しさを改善するためには、職員個人の努力だけに頼るのではなく、仕事の進め方や仕組みを見直す必要があります。

① 業務の見える化|何に時間がかかっているのか把握する

業務改善の第一歩は、現状を正確に把握することです。

例えば、「夕方の業務が忙しい」という意見があったとします。

しかし、この言葉だけでは、具体的な問題が分かりません。

食事の準備に時間がかかっているのか。

排泄介助が集中しているのか。

記録や申し送りが重なっているのか。

特定の職員に業務が偏っているのか。

こうした状況を確認するために役立つのが、タイムスタディなどの業務の見える化です。

タイムスタディでは、どの時間帯に、どのような業務が行われているのかを把握します。

例えば、次のように整理できます。

時間帯主な業務確認したいこと
7:00〜9:00起床介助・朝食介助介助が集中していないか
10:00〜12:00入浴・排泄介助職員配置と業務量は適切か
15:00〜17:00排泄・記録・夕食準備業務が重複していないか
17:00〜19:00夕食・就寝準備特定の職員に負担が偏っていないか

※時間帯と業務は説明用の例です。実際の施設の状況に合わせて確認してください。

私自身、介護施設でタイムスタディの実施を提案した経験があります。

そのときに感じたのは、現場が忙しいのであれば、その忙しさを把握することこそ必要ではないか、ということでした。

もちろん、タイムスタディだけが現状把握の方法ではありません。

業務日誌や職員への聞き取り、記録時間の集計など、別の方法でも構いません。

大切なのは、「忙しい」という印象を、改善のために使える情報に変えることです。

② 業務の優先順位|すべての仕事を同じように扱わない

介護現場では、複数の仕事が同時に発生します。

しかし、すべての仕事が同じ緊急度や重要度を持っているわけではありません。

例えば、ご利用者の急変対応と、翌週の会議資料の作成では、優先順位が異なります。

また、今すぐ対応する必要のある報告と、後からまとめて確認できる情報もあります。

こうした優先順位が曖昧だと、職員はその都度判断しなければなりません。

そこで、業務を次のように整理することが考えられます。

  • すぐに対応する業務:急変、事故、安全確保に関わる対応
  • 時間を決めて対応する業務:定例記録、申し送り、書類作成
  • まとめて対応できる業務:緊急性の低い確認事項、定期的な情報整理
  • 見直しを検討する業務:目的が不明確な作業、重複した記録や確認

重要なのは、職員一人ひとりの判断に任せきりにしないことです。

組織として優先順位や判断基準を共有することで、迷いや不要な確認を減らせます。

③ 業務の標準化|毎回考えなくてもよい仕組みをつくる

介護現場では、ご利用者一人ひとりの状態に応じた判断が必要です。

その一方で、毎回同じように判断している業務もあります。

例えば、事故発生時の報告手順です。

事故が起きるたびに、誰に報告するのか、どのように記録するのかを確認していては、対応に時間がかかります。

基本的な手順が明確になっていれば、職員は必要な行動を取りやすくなります。

標準化を検討したい業務には、次のようなものがあります。

  • 事故・急変時の報告手順
  • ご利用者の状態変化に関する情報共有
  • 申し送りの内容と方法
  • 介護記録の記載基準
  • ご家族への連絡・報告の流れ

もちろん、マニュアルを作るだけでは不十分です。

実際に使いやすい内容になっているか、職員が理解しているか、必要に応じて見直されているかも重要です。

毎回判断しなくてもよいことを仕組みにすることで、本当に判断が必要な場面に時間を使えるようになります。

④ 業務分担の見直し|特定の職員に仕事を集中させない

介護現場では、経験や能力のある職員に仕事が集まりやすい傾向があります。

対応が早い職員。

判断ができる職員。

頼めば確実に仕事を進めてくれる職員。

そうした職員に業務を任せれば、目の前の仕事は早く進むかもしれません。

しかし、それを繰り返していると、特定の職員に負担が集中します。

一方で、仕事を任されない職員には経験が蓄積されず、能力の差が広がる可能性もあります。

そこで必要なのが、業務分担と職員育成を一緒に考えることです。

例えば、次のような視点で整理します。

  • 特定の職員しか対応できない業務はないか
  • 業務量が一部の職員に偏っていないか
  • 手順を整理すれば他の職員にも任せられないか
  • 職員の経験や能力に応じた育成が行われているか
  • 任せた後の確認や支援の仕組みがあるか

仕事ができる職員に任せ続けることと、組織全体の能力を高めることは別です。

業務を適切に分担し、誰が担当しても一定の水準で実行できる仕組みを整えることが、長期的な負担軽減につながります。

⑤ 会議・委員会の改善|話し合いを具体的な行動につなげる

介護施設では、さまざまな会議や委員会が行われています。

しかし、会議を開催すること自体が目的になっていないでしょうか。

例えば、事故防止に関する会議で、次のような結論になったとします。

「今後は職員の意識を高めていく」

「情報共有を徹底する」

「事故防止に努める」

これでは、具体的に何を変えるのか分かりません。

会議で重要なのは、課題を整理し、必要な判断と行動につなげることです。

そのためには、次の5つを明確にすることが役立ちます。

  1. 事実:何が起きているのか
  2. 課題:何を改善する必要があるのか
  3. 対策:具体的に何をするのか
  4. 担当・期限:誰がいつまでに実行するのか
  5. 評価:いつ、どのように結果を確認するのか

例えば、「申し送りの情報が不足している」という課題であれば、共有する情報の基準を決め、担当者と実施日を明確にします。

そして、一定期間後に実際の運用状況を確認します。

会議で話し合うだけで終わらず、具体的な行動と評価までつなげることが大切です。


介護現場の生産性向上で注意したい3つのこと

① 「忙しい」を職員個人の問題にしない

介護現場の忙しさは、職員個人の能力や仕事の進め方だけで決まるものではありません。

人員配置、業務量、役割分担、施設の設備、情報共有の方法など、さまざまな要因が関係しています。

そのため、職員が「忙しい」と訴えたときに、「もっと効率よく働けばいい」と考えるだけでは不十分です。

実際の業務を確認し、組織として改善すべき課題がないかを検討する必要があります。

② 効率化によって生まれた時間の使い方を考える

ICTや業務改善によって時間を短縮できたとしても、その時間をすべて新しい仕事で埋めてしまえば、負担軽減につながらない場合があります。

効率化によって生まれた時間を、ご利用者への支援、職員の教育、情報共有、業務の余裕など、何に活用するのかを考える必要があります。

生産性向上は、単に多くの仕事をこなすことではありません。

限られた人員や時間の中で、支援の質を維持・向上させながら、職員の負担にも配慮することが重要です。

③ 現場の理解と管理者の意思決定を分けて考える

新しい取り組みを進める際には、現場への説明や意見の確認が必要です。

しかし、すべての職員が納得するまで何も決められないのであれば、組織としての改善は進みません。

私自身、業務改善の取り組みを進める中で、この難しさを感じた経験があります。

現場の状況を理解することは大切です。

ただし、それは意思決定を先送りする理由にはなりません。

管理者には、必要な情報を集め、目的や判断基準に基づいて意思決定し、実行できる環境を整える責任があります。

職員の意見を聞くことと、組織として判断することは、両立させる必要があります。


介護現場の「忙しい」を改善するためのチェックリスト

職場の業務改善を考える際には、次の項目を確認してみましょう。

  • どの時間帯に業務が集中しているか把握している
  • 業務量や作業時間を客観的に確認できている
  • 業務の優先順位が共有されている
  • 事故や急変時の基本的な対応手順が明確になっている
  • 記録や申し送りに重複した作業がない
  • 特定の職員に業務が集中していない
  • 会議で決めたことの担当者と期限が明確になっている
  • 業務改善の結果を確認する仕組みがある
  • 職員の負担感について定期的に確認している
  • 効率化によって生まれた時間の使い方を考えている

すべてを一度に改善する必要はありません。

まずは、自分たちの職場で特に問題になっていることを一つ選び、現状を確認することから始めてみましょう。

介護現場の忙しさに関するよくある質問

Q.介護現場が忙しいのは、人手不足が原因ではないのですか?

人手不足は、介護現場が忙しくなる重要な要因の一つです。

ただし、同じ人員配置であっても、業務の進め方や役割分担によって負担が変わる場合があります。

そのため、人員不足の問題と、業務改善によって対応できる問題を分けて考える必要があります。

Q.忙しくて業務改善に取り組む時間がありません。どうすればよいですか?

まずは、現在の業務の中で、どの作業に時間がかかっているのかを確認することが重要です。

新たな会議や書類を増やすのではなく、既存の記録や申し送りなどから現状を把握する方法もあります。

改善活動そのものが職員の負担にならないよう、管理者が時間や役割を調整することも必要です。

Q.介護現場の生産性向上とは、職員にもっと働いてもらうことですか?

生産性向上は、職員により多くの仕事を詰め込むことではありません。

業務のムリ・ムダ・ムラを見直し、限られた資源を適切に活用しながら、支援の質と職員の働きやすさを高めていく取り組みです。

Q.タイムスタディは必ず実施しなければならないのですか?

タイムスタディは、業務の現状を把握するための一つの方法です。

すべての介護施設に一律で実施義務があるわけではありません。ただし、取得する加算の要件や個別の取り組みでは、必要な調査・評価方法を確認する必要があります。

重要なのは、業務の実態を把握し、改善につなげることです。


まとめ|介護現場の忙しさを減らすには、仕事の量と仕組みの両方を見直すことが大切

介護現場では、日々多くの業務が発生します。

人員不足やご利用者への対応など、職員個人の努力だけでは解決できない問題も少なくありません。

しかし、忙しさの原因は、仕事の量だけとは限りません。

仕事の切り替えが多いこと。

業務の優先順位が曖昧なこと。

特定の職員に仕事が集中していること。

判断基準が整っていないこと。

会議で決めたことが具体的な行動につながっていないこと。

こうした問題も、忙しさや負担感を増やす要因になります。

『多忙感』から学べるのは、忙しいという感覚をそのまま受け止めるだけでなく、その背景に何があるのかを考えることの重要性です。

介護現場で業務改善を進めるためには、まず現状を把握し、具体的な課題を整理する必要があります。

そして、必要な対策を考え、実行し、その結果を確認していく。

私は、仕事を個人のモチベーションや頑張りだけに依存させるべきではないと考えています。

必要な仕事が、無理なく、一定の水準で実行できる仕組みを整えること。

それが、職員の負担軽減と、ご利用者への支援の質を両立させるために重要なのだと思います。

「忙しいから改善できない」で終わるのか。「忙しいからこそ、何を変えるべきか」と考えるのか。

その違いが、介護現場の業務改善を進めるための第一歩になるのではないでしょうか。


参考書籍

菅原洋平 著『多忙感』

※本記事は、書籍の内容を参考に重要な考え方を整理し、介護現場での実践例や筆者自身の経験・考察を加えたものです。

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