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「職員に説明したのに、思ったように伝わっていない」
「申し送りや報告の内容が曖昧で、状況がよく分からない」
「会議でさまざまな意見が出ても、具体的な改善につながらない」
介護現場で働いていると、このようなコミュニケーションの問題に直面することがあります。
介護の仕事では、ご利用者やご家族との関わりだけでなく、職員間の情報共有、多職種との連携、会議での意見交換など、さまざまな場面でコミュニケーションが求められます。
そのため、コミュニケーションの質は、日々の業務の円滑さだけでなく、ご利用者への支援の質にも関わる重要な要素です。
では、コミュニケーションを改善するためには、何が必要なのでしょうか。
話し方の技術を身につけることも大切ですが、それ以前に意識したいのが、**「話す前に何を考えているか」**ということです。
今回紹介するのは、安達裕哉さんの著書『頭のいい人が話す前に考えていること』です。
本書では、仕事ができる人の特徴として、相手の話を理解し、必要な情報を整理し、的確な言葉を選ぶことの重要性が紹介されています。
この記事では、書籍の重要な考え方を分かりやすく整理したうえで、介護現場で実践できるコミュニケーションの改善方法を具体例とともに解説します。
この記事で分かること
- 『頭のいい人が話す前に考えていること』の重要なポイント
- 介護現場でコミュニケーションがうまくいかない原因
- 職員間の報告・連絡・相談を改善する方法
- ご利用者・ご家族対応で役立つ聞き方と伝え方
- 会議やカンファレンスを具体的な行動につなげる方法
- リーダーや管理職が身につけたい思考と判断の習慣
『頭のいい人が話す前に考えていること』とは?本の要約と重要ポイント
仕事ができる人は「話す前の思考」が違う
仕事ができる人と聞くと、知識が豊富な人や、説明が上手な人を思い浮かべるかもしれません。
しかし、どれだけ知識が豊富であっても、相手が求めていることを理解できなければ、その知識を十分に活かすことはできません。
例えば、上司から業務の進捗状況を質問されたときに、これまでの経緯を長々と説明してしまう人がいます。
一方で、「現在はここまで進んでいます。残っている課題は〇〇です」と簡潔に説明できる人もいます。
両者の違いは、単なる話し方だけではありません。
後者は、話す前に「相手は何を知りたいのか」「何を伝えれば判断できるのか」を考えています。
本書では、このように相手のことを考え、適切な言葉を選ぶことが、仕事における重要な能力として紹介されています。
本書から学ぶ8つの重要な考え方
書籍の紹介動画で取り上げられている内容を整理すると、次の8つのポイントにまとめられます。
| 重要な考え方 | 実践するためのポイント |
|---|---|
| ① 相手のために言葉を使う | 自分が話したいことより、相手が求めていることを考える |
| ② 相手の話をしっかり聞く | 途中で遮らず、要点を整理しながら聞く |
| ③ 感情的に反応しない | 感情と事実を切り分けて判断する |
| ④ 話を言語化して整理する | 「つまり何が問題なのか」を明確にする |
| ⑤ 分かりやすく説明する | 相手に合わせて言葉や具体例を選ぶ |
| ⑥ 結論から話す | 相手が最初に知りたいことを伝える |
| ⑦ 事実と意見を区別する | 観察した事実と自分の解釈を分ける |
| ⑧ 言葉を選び、自分をよく見せようとしない | 曖昧な表現を減らし、相手の理解を優先する |
これらの考え方は、一般的なビジネスだけでなく、介護現場でも十分に活用できます。
特に重要なのは、コミュニケーションの目的を「自分が伝えること」ではなく「相手が理解し、次の行動につながること」と考えることです。
介護現場でコミュニケーションがうまくいかない3つの原因
介護現場でコミュニケーションの問題が起こる背景には、さまざまな要因があります。
ここでは、特に日常業務で見られやすい3つの原因を整理します。
① 自分が伝えたいことを優先している
職員同士の会話やご家族への説明では、自分が伝えたい内容を一方的に話してしまうことがあります。
例えば、ご家族から「最近、母の様子はどうですか」と聞かれた場合です。
職員は食事量や入浴状況、日中の活動などを説明するかもしれません。
もちろん、それらも大切な情報です。
しかし、ご家族が本当に知りたいのは、「母は寂しい思いをしていないだろうか」「施設で安心して過ごせているだろうか」ということかもしれません。
この場合、生活状況を詳しく説明するだけでは、ご家族の不安を十分に解消できない可能性があります。
まずは相手が何を知りたいのかを確認し、その内容に合わせて説明することが大切です。
② 事実と解釈が混ざっている
介護現場では、「不穏だった」「元気がなかった」「危険な行動があった」といった表現が使われることがあります。
しかし、これらの言葉だけでは、実際に何が起きたのか分かりません。
例えば、「今日は元気がありませんでした」という報告では、食事量が少なかったのか、会話が少なかったのか、横になっている時間が長かったのかが不明確です。
職員によって受け止め方が異なる可能性もあります。
正確な情報共有のためには、観察した事実と職員の解釈を分けて伝える必要があります。
③ 話し合いが具体的な行動につながっていない
会議やカンファレンスで意見交換を行っても、具体的な対策が決まらないことがあります。
例えば、事故防止の会議で「職員の意識を高める必要がある」という結論になった場合です。
この言葉自体は間違っていません。
しかし、誰が何をすればよいのかが明確でなければ、実際の改善につながりにくくなります。
会議では、意見を出すだけでなく、課題を整理し、具体的な行動を決めることが重要です。
介護現場で役立つコミュニケーション術5選【具体例付き】
ここからは、本書の考え方を介護現場でどのように活用できるのか、具体的な場面ごとに解説します。
① ご利用者・ご家族対応|相手が求めていることを確認する
ご利用者やご家族への対応では、相手の話を正確に理解することが重要です。
例えば、ご家族から「最近、母があまり電話に出ないのですが、大丈夫でしょうか」と相談された場合です。
ここで「体調に問題はありません」と説明しても、ご家族の不安が解消されるとは限りません。
電話に出ない理由が体調の問題なのか、生活リズムの変化なのか、電話に気づいていないのかは、確認しなければ分からないからです。
改善前の対応
「体調は変わりありませんので、大丈夫ですよ」
改善後の対応
「電話に出られないことが増えて、ご心配なのですね。最近の生活状況を確認したうえで、ご説明します」
改善後の対応では、相手の不安を理解しようとする姿勢を示し、必要な情報を確認しています。
相手が何を心配しているのかを把握することで、より適切な説明や対応につなげることができます。
実践のポイント
ご利用者やご家族から相談を受けたときは、すぐに答えを出そうとするのではなく、「何に困っているのか」「何を知りたいのか」を確認しましょう。
② 職員間の相談|「忙しい」を具体的な課題に変える
介護現場では、「忙しい」「人が足りない」「仕事が大変」といった言葉が使われることがあります。
もちろん、実際に人員不足や業務負担が問題になっている場合もあります。
しかし、これらの言葉だけでは、何を改善すればよいのか分かりません。
例えば、職員から「最近、夜勤が忙しすぎます」と相談された場合です。
改善前の対応
「夜勤はみんな大変だから仕方ないよ」
改善後の対応
「特に忙しいのはどの時間帯ですか?」
「どの業務が重なっていますか?」
「以前と比べて何か変わったことはありますか?」
このように質問することで、漠然とした「忙しい」という訴えを具体的な課題に変えることができます。
例えば、排泄介助とナースコール対応が特定の時間帯に集中しているのであれば、業務の進め方や役割分担を見直す必要があるかもしれません。
一方で、実際に人員が不足しているのであれば、人員配置の検討が必要になります。
重要なのは、最初から原因や解決方法を決めつけないことです。
実践のポイント
職員の不満や相談を受けたときは、感情的な言葉をそのまま受け取るだけでなく、具体的な事実を確認し、改善できる課題として整理しましょう。
③ 介護記録・申し送り|事実と解釈を分けて伝える
介護記録や申し送りは、ご利用者の状態を職員間で共有するための重要な手段です。
しかし、曖昧な表現が多いと、職員によって理解が異なり、適切な対応につながらない可能性があります。
例えば、次のような報告です。
改善前
「Aさんは今日は不穏で、落ち着きがありませんでした」
改善後
「Aさんは15時頃から『家に帰りたい』と繰り返し話され、玄関方向へ3回歩かれました。職員が話を伺ったところ、『家族が待っている』と話されました」
改善前の報告では、実際にどのような行動があったのか分かりません。
一方、改善後の報告では、時間・行動・発言が具体的に示されています。
これにより、他の職員も状況を把握しやすくなります。
さらに、観察した事実をもとに、ご利用者の行動の背景を考察することもできます。
例えば、帰宅願望の背景には、不安や生活歴、環境の変化など、さまざまな要因が考えられます。
ただし、事実を確認せずに原因を決めつけることは避けなければなりません。
実践のポイント
介護記録や申し送りでは、「いつ」「どこで」「何があったのか」「どのように対応したのか」を具体的に伝えましょう。
また、観察した事実と、自分の考察や判断を区別することが大切です。
④ 会議・カンファレンス|意見交換を具体的な改善につなげる
介護現場では、事故防止、感染対策、身体拘束適正化、業務改善など、さまざまな会議が行われています。
しかし、会議で意見を出すことと、課題を解決することは同じではありません。
例えば、事故防止の会議で次のような意見が出たとします。
「職員一人ひとりが、もっと注意する必要があります」
「事故を防ぐためには、意識を高めることが大切です」
こうした意見は理解できますが、具体的な改善策としては不十分です。
そこで、話し合いを次の4つに整理します。
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 事実 | どのような事故が、いつ、どこで発生したのか |
| 課題 | 事故が発生した背景や要因は何か |
| 対策 | 具体的に何を変更するのか |
| 実行 | 誰が、いつまでに取り組み、どう評価するのか |
例えば、夕食前の時間帯に転倒事故が続いているのであれば、その時間帯のご利用者の状態や職員の動き、環境などを確認します。
そのうえで、見守り方法や業務の進め方など、具体的な対策を検討します。
会議の目的は、意見を出し合うことだけではありません。
課題を整理し、必要な判断を行い、具体的な行動につなげることです。
実践のポイント
会議では、「何を話したか」だけでなく、「何が決まり、誰が何を実行するのか」を明確にしましょう。
⑤ リーダー・管理職|感情と事実を切り分けて判断する
リーダーや管理職は、職員からの相談や意見の対立など、さまざまな場面で判断を求められます。
例えば、職員から次のような不満を伝えられた場合です。
「どうして私ばかり大変な仕事をしなければならないんですか」
このとき、すぐに「そんなことはない」「みんな同じように働いている」と反論すると、相手との対立につながる可能性があります。
まずは、なぜそのように感じているのかを確認します。
実際に業務負担が偏っているのかもしれませんし、特定の業務に対して負担を感じているのかもしれません。
そのため、担当業務や役割分担、業務量などを確認し、事実に基づいて判断する必要があります。
ここで重要なのは、相手の話を聞くことと、相手の要求をすべて受け入れることは別だということです。
リーダーには、職員の意見を理解する姿勢とともに、組織として必要な判断を行う役割があります。
実践のポイント
職員の意見や感情を受け止めながらも、判断は事実・目的・基準に基づいて行いましょう。
介護職員が今日から実践できる「話す前に考える」5つの習慣
ここまで紹介したコミュニケーション術を、すべて一度に実践するのは難しいかもしれません。
そこで、まずは次の5つを意識してみましょう。
① 相手が求めていることを考える
相手が知りたいことは何か、何に困っているのかを確認します。
自分が伝えたいことだけを優先しないことが大切です。
② 事実と解釈を分ける
自分が実際に見聞きしたことと、そこから考えたことを区別します。
特に介護記録や報告では重要な習慣です。
③ 結論から伝える
報告や相談では、相手が最初に知る必要のある情報を伝えます。
その後に理由や経緯を説明すると、内容が理解されやすくなります。
④ 相手に分かる言葉を使う
専門用語や曖昧な表現を減らし、具体的な言葉で説明します。
特にご利用者やご家族への説明では、相手の理解度に合わせることが大切です。
⑤ 次の行動につながる発言を意識する
相談や会議では、意見を伝えるだけで終わらず、何をすればよいのかを考えます。
課題を整理し、具体的な行動につなげることが重要です。
介護現場のコミュニケーションに関するよくある質問
Q.相手の話を最後まで聞いていると、時間がかかりませんか?
相手の話を聞くことは大切ですが、必ずしも長時間聞き続ける必要はありません。
重要なのは、話の内容を理解し、必要な情報を整理することです。
例えば、「今のお話を整理すると、〇〇ということでよろしいですか」と確認すれば、認識の違いを防ぎながら話を進められます。
ただし、ご利用者やご家族が不安や悲しみを表現している場面では、効率を優先しすぎず、気持ちを受け止めることも大切です。
Q.結論から話すことが苦手な場合は、どうすればよいですか?
まずは、「結論から言うと」「報告したいことは〇〇です」といった言葉を使う習慣をつけてみましょう。
例えば、事故報告では「Aさんが居室で転倒しました。現在の状態と対応状況を報告します」と伝え、その後に経緯を説明します。
日常の申し送りや報告で繰り返し練習することが効果的です。
Q.職員の意見を聞いても、結局まとまらない場合はどうすればよいですか?
まず、何について意見を求めているのかを明確にする必要があります。
情報を集めたいのか、改善案を考えたいのか、最終的な判断を行いたいのかによって、話し合いの進め方は異なります。
また、全員の意見が一致することを、必ずしも目標にする必要はありません。
必要な意見を集めたうえで、目的や判断基準に基づいて意思決定することも重要です。
Q.コミュニケーション能力は、経験を積めば自然に高まりますか?
経験によって身につく部分はありますが、経験年数が長いだけで必ず高まるわけではありません。
自分の話し方や聞き方を振り返り、改善を繰り返すことが大切です。
例えば、申し送りの後に「相手に必要な情報が伝わったか」、会議の後に「具体的な行動が決まったか」を確認することも、コミュニケーションの質を高める取り組みになります。
まとめ|話す前の思考を変えることが、介護現場のコミュニケーション改善につながる
『頭のいい人が話す前に考えていること』から学べるのは、単なる話し方のテクニックではありません。
相手の話を聞き、情報を整理し、必要なことを分かりやすく伝えるという、仕事を進めるための基本的な思考のあり方です。
介護現場では、コミュニケーションの問題が、情報共有の不足や職員間の認識の違い、業務改善の停滞につながることがあります。
だからこそ、日々の会話や報告、会議の中で、話す前に考える習慣を身につけることが重要です。
特に意識したいのは、次の5つです。
- 相手が何を求めているのかを考える
- 事実と解釈を区別する
- 必要な情報を整理して結論から伝える
- 相手に分かりやすい言葉を選ぶ
- 話し合いを具体的な行動につなげる
介護の仕事では、専門的な知識や経験も大切です。
しかし、それらを適切に活用するためには、相手を理解し、情報を整理し、必要なことを伝える力が欠かせません。
そして、コミュニケーションの目的は、自分が上手に話すことではありません。
相手が理解し、適切な判断や行動につながることです。
まずは日々の申し送りや職員との会話で、「相手は何を知りたいのか」「何を伝えれば次の行動につながるのか」を意識することから始めてみてはいかがでしょうか。
小さな習慣の積み重ねが、職員間の連携を円滑にし、よりよいご利用者支援につながっていくはずです。
参考書籍
安達裕哉 著『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社、2023年)